-2026.3.11発表-
千葉大学大学院看護学研究院の研究グループは、認知症高齢者が文書を読む際の視線の動き(アイトラッキングデータ)の分析から、読解の負担を軽減する可能性を示しました。
認知症患者への文書改善とケアの重要性を提示

文字情報を正しく読む、理解することは重要なことですが、認知症患者にとっては記憶、注意、実行機能、言語機能などへの影響から読解が困難な状況です。
その現状に対し、視線の動きという客観的な指標を用い、どのような文書が「読みやすい」のか、具体的な特徴を探索したのが本研究です。
本研究成果は2026年1月29日に、国際科学誌BMC Geriatricsでオンライン公開されています。
実施したのは、千葉大学大学院看護学研究院の犬山彩乃特任助教と諏訪さゆり教授らの研究グループ。
9名の認知症高齢者(75~90歳代、男性5名、女性4名)を対象に、眼鏡型のアイトラッカーを使用して、文書読解時の視線の動きを可視化する「アイトラッキング」を実施しました。
内容や難易度が異なる2種類の文書を使用し、元の文書に加え、「修正バージョン」として読みやすさを考慮したフォントサイズ・行間・文字間隔の拡大、1文の短縮、漢字割合の削減(約39%→27~30%)を行った文書を使用。読解方法としては「音読」と「黙読」の両パターンを分析対象としました。
分析の結果、以下のことが明らかとなりました。
文書難易度の違いによる比較
元の文書2種を難易度の高低で比較すると、難易度の低い文書は「読み飛ばし(p=0.046)*」や「誤読(p=0.050)」が有意に少ないという結果に。
これは、文字数や漢字の少なさが認知負荷を軽減し、注意力の持続を助けることを示唆。
「修正バージョン」における変化:読解時間、注視回数、視線の逆戻りの改善
元の文書と修正バージョンを比較したところ、特に音読を選択した参加者において、修正バージョンの使用により、読解時間(p=0.028)、注視回数(p=0.046)、視線の逆戻り(p=0.046)が有意に改善。
なお、黙読を選択した参加者においては、統計的な有意差は確認されず。この結果は、文書の修正による効果が音読の利点(声と視線が同調し、集中力が高まる)によってさらに高められたためと考えられる。
個別支援の必要性
アイトラッカーにて記録した文書読解時の映像をもとに、認知症高齢者の読解の様子について質的分析を行った結果、文書の修正だけでは不十分な点も明らかに。
支援者による「読む箇所の指差し」や、「読み始めのタイミングを促す」といった働きかけが読解の完了を後押しした。
情報のユニバーサルデザイン化への可能性
研究結果から、認知症高齢者への情報伝達に「読みやすい文書の作成」と「環境や個人の能力に応じた個別支援」が効果的であることが示されました。
特に漢字の割合は、単に割合を減らすのではなく、3~4文字に1回の頻度(約30%前後)で適切に配置することが、スムーズな視線移動を促すための目安となる可能性が示されています。
得られた結果は、医療・介護現場での説明用ツールの改善や、社会における情報のユニバーサルデザイン化を推進する上で重要な知見となるものです。
*p 値(p):研究や調査で得られた結果が偶然によるものかどうかを判断する指標。一般的にp<0.05だと、偶然だとは考えにくいとされる。
・論文情報
タイトル:Eye movement and reading behavior in older adults with dementia
著者:Ayano Inuyama, Motoshi Ouchi, Shigeki Hirano, Sayuri Suwa
雑誌名:BMC Geriatrics
DOI:10.1186/s12877-026-07030-8
https://link.springer.com/article/10.1186/s12877-026-07030-8
国立大学法人千葉大学
https://www.chiba-u.ac.jp/

