現実空間と仮想のデジタル情報を融合するXR(クロスリアリティ)技術が広く浸透し始めてきました。製造、保守、研修など多彩な現場で活用が広まっており、介護分野への応用の期待も高まります。そんな最先端技術が集った「XR総合展」からその最前線情報をレポートします。
※「XR総合展」は2021年4月14日(水)~16日(金)、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されました。
2025年には1兆円超え!急拡大するXR市場
少し前に「VR」に「AR」が加わったかと思うと、いつの間にか「MR」も加わり、それらの総称として「XR(クロスリアリティ)」という言葉も出てきて、頭の中では現実空間と仮想のデジタル空間の境目すら不明瞭になってきた感のあるリアリティ技術。
軽く整理をしておくと、それぞれの違いは以下となります。
人工的に作られた仮想空間を現実かのように体感させる技術
・AR(Augmented Reality:拡張現実)
現実の世界に仮想世界をプラスし、CGキャラクターなどが現れたように見せる技術
・MR(Mixed Reality:複合現実)
CGで人工的に作られた仮想世界と現実世界を融合(ミックス)させる技術。現実情報と仮想情報を重ねて表示することが可能
さらにもう一つ、
現実世界の一部を仮想世界に差し替えるための技術。現実の映像に過去の映像を重ね合わせ、その過去がいま目の前で起きているかのように見せることが可能
というリアリティ技術も注目が高まりつつあります。
それら総称的な言葉として用いられる言葉がXR(X Reality クロスリアリティ)技術ということです。
こうしたリアリティ技術の広がりは市場の拡大を意味します。
2019年は約4千億円とされた市場規模は、本格的な5Gのスタート、コロナ禍によるネット需要や非接触、遠隔操作ニーズの急増もともなって一気に拡大中、2025年には約1.2兆円に急拡大すると予測されています。(矢野経済研究所調べ)
最初に登場したリアリティ技術はVRですが、商用化されたのは実に1989年に遡るとのこと。その年の技術イベントでVRを使ったコミュニケーションシステムがお披露目されたそう。ヘッドマウントディスプレイを被った2人が、同じVR空間で会話するバーチャル会議システムのようなものだったとのことですが、30年以上も前から用いられていたとは驚きです。
時は過ぎ、通信インフラも5Gの時代。従来よりも“大容量・低遅延・多接続”を特徴とするため、映像という膨大なデータがともなうXR技術がさらに高度な領域に駆け上がるに違いありません。
必要としない分野はないリアリティ技術
早くからXRが活用された分野といえば、ゲームや映画、テーマパークといったエンターテインメント領域。リアリティ技術ならではのインタラクティブ性で、その世界観に入り込める演出が効果抜群です。
▼もっとリアルな旅行体験
「オンラインツアーでよりリアルな体験をしてもらいたい」「リモートの会社イベントで臨場感を出したい」「非接触非対面で施設案内を実施したい」といった課題を解決/■TIS(株)
XR技術の真髄は、その場に居ないまでも実際に近い疑似体験ができるというもの。そうした点で、製造や保守、教育、研修など多様なビジネスの現場での活用が始まっています。
現実的に大きなコストやリスクがともなうものを仮想現実として再現できるVRは、モノづくりでは大型装置の設置を想定し、製造工数や出来高の割合を示す歩留まり率をシミュレーションするといった活用例が見られます。
医療分野でのコンテンツも登場しており、訓練が難しい救急医療の実態を体験できる教育用のコンテンツとして導入が進んでいます。
▼職業トレーニング用VR
▼最新VRを活用した安全体感
仮想的なオブジェクトで現実世界を拡張するAR技術では、現実世界の「モノ」や「地形」「景色」などに仮想的なデータを重ね、本来なら実現していないモノ・建物・景色などを再現するなどの表現が主流。身近なものでは、商品にスマホをかざすと仕様や生産者など詳細情報が画面に表示される仕組みがあります。
現実世界の建物をもとに改築や増築をシミュレーションする、ヒトの筋肉や骨の動きを詳細に再現する、といった現実世界を補完・補強する目的で活用されています。
現実世界と仮想世界をミックスさせる技術のMRも、幅広い製造現場や建築、医療現場での活用が進んでいます。
現実の建築現場の図面に建築後の仮想データを重ね合わせて設計を確認するなど、完成形をイメージした仮想の3Dデータを現実世界に重ねてシミュレーションするといったことや、外見上は内部構造が確認できないブラックボックス化された中身を可視化することで、機器のメンテナンスや人体治療などのシミュレーションに活かされています。
▼アバターで参加できる遠隔会議システム
▼ゴーグル不要のVR
会場では、ゴーグルがなくても映像がリアルに見える技術を用いた体感システムや裸眼3Dディスプレイシステム、仮想世界にあるモノを実際にさわったような感覚が伝わるハプティクスなどの技術が展示紹介され、早々に具体的な商品として登場しそうな感じでした。
介護の現場を想定してみると、介護者としての教育や研修シミュレーション、介護施設内の仮想体験、また入所者や高齢者対象ではゲームやツアーを用いたレクリエーションなど、介護サービスの向上に活用できるでしょう。さまざまな面でメリットを享受できそうですが、活かすにもコンテンツありき。多くのベンダからの開発を期待したいところです。
樋口 泰光