従来、認知機能や感情機能、ADL(日常生活の動作)機能に有効と考えられたメークアップなどの美容ですが、AIによる客観的な顔診断により、即時に認知症高齢者の喜びの感情が増加することがわかりました。日本介護美容セラピスト協会による調査内容を紹介します。
AI顔分析による客観的評価、見た目の若返りがよろこびに直結
従来、メークアップなどの美容は、非薬物療法の一つとして、認知機能や感情機能、ADL(日常生活の動作)機能に有効であると考えられてきましたが、医学的なエビデンスは不十分でした。今回、その効果が実際にあることを一般社団法人日本介護美容セラピスト協会(大阪市福島区)が「認知症患者に対する化粧美容セラピーの認知・情動機能改善効果」として、「日本化粧医療学会 第2回学術総会」(2月6日オンライン開催)で発表しました。
実施した研究は、AIによる客観的な顔診断で、即時に認知症高齢者の喜びの感情が増加することがわかったということです。
認知症高齢者を対象に、化粧美容セラピー群とスキンケア+メーク実施(19名)、対象群/スキンケアのみ(17名)の2群に分け検証し、問診、セラピー、画像解析などで評価したもの。
結論として、認知症高齢者には、見た目の良さが心理的健康に重要であり(Kligman and Graham, 1986)、よりキレイになったと感じることがBPSD※2の緩和にも関係していると考えられる、としています。
今後の展開として、次のようにコメントしています。
「超高齢化社会を迎えた日本において、加齢に伴い増加する認知症に対する取り組みは、学術的かつ社会的課題です。認知症高齢者の生活の質を向上させることや、介護者のモチベーションに繋がる取り組みは、より必要性を増すと考えます。メークアップが、認知症高齢者の喜びの感情を沸き起こすことが確認できたことは、継続的なメークアップが、認知症の進行を遅らせる可能性を示唆し、QOLの改善に繋がるものと考えられます。今後は、施術を繰り返し、長期的な効果について検証を進め、化粧美容セラピーとしての客観的評価の更なる確立に取り組みます。」
研究結果
1.化粧美容セラピー群では、認知症周辺症状の指標である阿部式 BPSD[※2]スコア(ABS[※3])が有意に改善されており、即時的な感情改善効果が示された。
化粧美容セラピー群は対象群と比較してABSスコアを有意に改善(対象群では1.8±4.4悪化し、化粧美容セラピー群では2.9±4.3改善* p <0.05)。
2.AI顔解析では化粧美容セラピー群で、見た目年齢が1.9歳有意な減少を示した。
(* p <0.05)。対象群はわずか0.1歳とほとんど変化なし。)
3.AI顔解析の感情評価では、化粧美容セラピー群で(特にADL[※4]障害が中等度の患者(ADLスコア(6 – 15))は、「喜び」の感情スコアが有意に向上した。
4.化粧美容セラピーに対する満足度78.9%。
化粧美容セラピー群の19人のうち15人(78.9%)は、施術に対する満足度を5つの総合グレード(「とてもよかった」、「良かった」)と報告。対象群は17人のうち9人(52.9%)。この喜びのスコアは、認知症機能の指標であるMMSEスコア(ミニメンタルステート検査=精神状態短時間検査)と有意な相関を示した。
[※2]認知症の中核症状である認知機能低下の影響で、本人が混乱したり落ち込んだりした結果として起こる周辺症状のこと。
[※3]現代日本に適した新しいBPSDスコアのこと阿部式BPSDスコア(Abe’s BPSD Score = ABS)
[※4]通常の日常生活に必要な基本的な活動のこと。