どこかに障がいを持つ人は、当然健常者より通常の生活で困ること、その点は“不自由な部位”によって異なります。そうした前提から不自由な部位を交流要素としてマッチングし、境遇の近い人とネット上で友だちになれるSNSがあります。自らが後天性障がい者というアクティベートラボ(東京都新宿区)CEO・増本裕司氏が始めた新たなサービスを取り上げ、障がい者のSNSを考えます。
健常者と障がい者にあるIT情報格差
「自分に最適な情報に簡単にアクセスするサイトがない」
増本裕司氏がそう感じたのは、11年前に脳出血で倒れ、高次脳機能障がいと右半身麻痺から復帰するまでの過程でのこと。
「例えばある観光地へ行くのに、障がい者は健常者と同じルートで目的地にはたどり着けないことが多いですが、障がいの部位、程度などによって障がい者の間でもルートは変わります。
片半身麻痺の人にとって、手すりが右にあるのか、左にあるのか、両方にあるのか、といったことは重要な問題になります。
しかしこれまでの情報サイトには、バリアフリーであるか、エレベーターがあるか、といった情報が画一的に載っているだけで、実際に行ってみたり聞いてみたりしないとわからないことが多かったのです。」
健常者にはニーズに見合った情報がありながら、障がい者には必要とする情報が乏しい。このIT情報格差(デジタルバイド)はなぜ生まれたのか?
「医療の現場では疾患ごとに何科が診るか、というふうに患者を区分けするので、部位によるグルーピングが必要なかったことなどが大きな要因と思われています。」と増本氏は見ています。
障がいのある部位を絵を使って登録、雇用面への配慮も
そこで発案したのが、自身の障がいの部位を伝えることで情報を共有していく仕組み。
情報共有が構築しやすいSNS機能で、境遇の近いユーザーを自動でマッチングやリストアップできるようにして、友だちになりやすく、同時に有用な情報が共有できやすいSNSの構築です。
「こうした情報の蓄積によって、例えばあるレストランのバリアフリー情報、アクセスの仕方、多目的トイレの有無、手すりの位置などがわかり、自身の登録内容に合った場所であるかどうかの検索機能も充実していくことになります。」と増本氏はその有用性を伝えています。
始動したSNSは「OpenGate」(https://open-gate.jp/)。
SNSの活用にはユーザ登録が必要ですが、そこには操作性も最適化された独自の機能が搭載されています。
「ユーザ登録の際に自身の障がいの場所と状態を絵を使って入力するサイトを考案。その人に最適な情報を届けるためにプロフィールを整理することを始めました。この入力デバイス「ブイくん」は特許を取得しています。」
あわせて、蓄積されるそれらノウハウを飲食産業への提案事案として活用でき、同時にアミューズメント、スクール、雑貨、住まいなどさまざまな業界へのアプローチも行っていく予定としています。
またこうして蓄積された個々の情報は、リモートワークの拡大で高スキルを持つ障がい者への雇用ニーズの高まりが考えられるとし、人事担当者がスキルを重点に置いた情報共有に役立ってもらうなど、工夫も考えらえれています。
同時に記事サイト「THE FEATURE」(https://activatelab.co.jp/article/)」も開設、リハビリを行う医療従事者や、普通に社会に参画し充実した暮らしを送る人々を取材した記事を掲載し、“人によってさまざまな障がいはだれもが持つ「個性」と同じものである”ということを読み解いていくとしています。
「こうした事業やサイト運営を通じて、身体障害者の人でも希望を持って人生を歩める社会の完全な実現に、一歩一歩進んでいきたいと考えています。」
境遇の近いユーザーや関係値の近いユーザーを検索することによって知見や経験を共有できるほか、ユーザー間のダイレクトメール機能も装備し、1体1や小グループ間でのメッセージのやりとりもできます。