千葉工業大学は、福井県永平寺町で実施した健常な高齢者に対する大規模な認知機能検査と仰向けで眼を閉じた状態である安静覚醒閉眼時の脳波データの調査から、高い認知機能を維持する高齢者では前頭野の神経ネットワークにおけるハブ性が強くなっていることを明らかにしました。
何もしていないときの前頭野の神経ネットワークが関与
高齢になっても高い認知機能を保持して活発に生活されている高齢者は、前頭葉におけるハブ性の高さによって脳の活動が支えられているかもしれません。
こうした成果が、千葉工業大学が実施した調査から明らかになりました。
脳は、いわばインターネットのように、複雑なネットワーク(ニューラルネットワーク)として働いています。脳内の膨大な数のエリア同士がつながり情報を共有しあっていますが、エリアの集まりで一定の規模に達した集団(クラスター)があり、そのなかで集中して情報が集まる中心的存在が「ハブ」です。
ものごとを正しく理解して適切に実行するための認知機能は、加齢の過程において衰えていきます。
一方で、年を重ねても高い認知機能を維持される高齢者も多いことから、加齢においても認知機能を維持する機構が存在しているかもしれないとの視点から、“ハブ構造は高齢者における認知機能の維持に重要な役割を担う”という仮説を立て研究をおこなったものです。
具体的な研究内容は以下となります。
福井大学医学部を中心とする研究グループが、福井県永平寺町の健康な高齢者199名を対象に実施した認知機能検査(*)、安静閉眼時の脳波計測から、投薬治療などをおこなっておらず、肥満や高血圧のない65歳から74歳の38名の健常高齢者が対象。
(*)ファイブ・コグと呼ばれる「運動」「記憶」「注意」「視空間認知」「言語」「思考」の6領域にわたる広域的な脳機能を計測
千葉工業大学の研究グループは、計測された脳波データに対して、Phase Lag Index(PLI)と呼ばれる脳領域間の機能的な結合度合いを評価する指標を用い。機能的ネットワークを推定しました。
その結果、機能的結合の強度と認知機能との関連性は認められませんでした。
一方、ハブ性を評価する媒介中心性(betweenness centrality: BC)解析では、前頭野におけるBCが認知機能と正の相関関係を示すことが明らかになっています。
前頭野は各脳領域間の神経活動を制御する役割(トップダウン制御)を担っており、高いハブ性はこのトップダウン制御との関連性が考えられるということです。
この結果は、高齢者脳の前頭野の高い情報の集約・発信・中継機能は、適切なトップダウン制御を介した、認知機能の維持に寄与する可能性を示すものとされています。
千葉工業大では、今後の展望について次のように記しています。
認知機能に関わる機能的ネットワークの特性を、臨床的汎用性の高い脳波により同定する本研究の成果は、高齢者の認知機能推定を実現する生物学的指標の確立に寄与すると考えられます。
将来的に、個々の高齢者の認知機能に合わせた適切な介入が実施されることで高い認知機能が保持され、超高齢社会においてもだれもが幸福に暮らせる社会の実現に寄与していくものと期待されます。
本研究は、以下機関による共同研究です。
千葉工業大学 大学院、国立精神・神経医療研究センター、金沢大学、福井大学、青樹会 清和病院、明石こころのホスピタル、大阪成蹊大学
千葉工業大学 プレスリリース
https://www.it-chiba.ac.jp/topics/pr20230418/