このほど女性ヘルスケア業界におけるジェンダード・イノベーションの推進を目的に、起業支援を行うウーマンズがネオマーケティングと共同で性差医療や女性ヘルスケアに関する意識調査を実施。多くの人が配慮した医療や商品の必要性を感じていることがわかりました。
「フェムテック」市場は今後2兆円規模に拡大、領域も多様化へ
女性ヘルスケアに関連する市場には、女性が抱える様々な悩みをテクノロジーによって解決に導く商品やサービスを指す「フェムテック」、女性の体や健康をケアする商品やサービスを指す「フェムケア」の市場が注目を集めています。
フェムテックは2021年の「新語・流行語大賞」にノミネートされたていたことも記憶に新しいところです。
月経や妊娠、産後ケア、更年期、婦人科系疾患など対象範囲は広く、普及が進むことで大きな経済効果も期待されます。
経済産業省の2020年度「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査」では2025年時点のフェムテック市場による経済効果は約2兆円に上ると推計されています。
生殖系中心から年齢や疾病などより性差を意識したサービス化の方向へ
昨年12月、出版社の宝島社(東京都千代田区)は、10~60代まで各世代の女性誌11誌・男性誌2誌の計13誌合同によるフェムテック・フェムケア啓発プロジェクト「もっと話そう! Hello Femtech(ハローフェムテック)」を始めていますが、その始動に先立ち10~70代の読者2230名(女性1934名、男性288名、その他8名)にフェムテックの認知度に関してアンケート調査を実施したところ、「フェムテック」という言葉を知っているのは8.7%、意味まで理解していると答えたのはわずか3.2%という結果となっていました。
その一方で、意味を知ったうえでフェムテックに興味を持った人は82%を超える結果となり、言葉として新しい「フェムテック」は浸透前ながら大きな関心事であることがうかがえます。
そんなフェムテック市場は、国内と海外で対象がおのずと異なってきており、生理・妊娠・出産・更年期・フェムケア・セクシャルウェルネスといった生殖関連のフェムテックに集中している国内に比べ、欧米を中心に海外ではすでに生殖系以外の領域に着目したフェムテックが次々に登場しています。
国内でも新規企業の参入など活性化していき、多様な年齢・ライフステージ・疾患・不調・障害を対象にしたものが登場、より性差に明確な主眼を置いた商品・サービスに関心が向かっていくと考えられています。
こうした背景から今後、女性ヘルスケア市場では、ジェンダード・イノベーション発想(※)に基づいた開発が活発化すると見込まれています。
(※)ジェンダードイノベーションとは、科学や技術、政策に性差分析を取り込むことにより、新たな視点や方向性を見いだし、真のイノベーションを創出することを指す概念。
ジェンダード・イノベーション発想のヘルスケアソリューション開発に向けた女性調査
消費者理解をイノベーションへとつなげるマーケティングリサーチで企業の商品・サービスの企画開発をサポートするネオマーケティングと、女性ヘルスケア市場を専門に企業支援を行うウーマンズは共同で実施された今回の調査では、20代〜90代の幅広い層の女性から性差に着目した医療(=性差医療)とヘルスケア商品・サービスについての見解を確認、日常的に用いるさまざまなヘルスケア商品・サービスにおいても、性差医療と同様に性差への配慮を必要と感じている女性が多いことが明らかになりました。
(ウーマンズ2022年2月4日発表プレスリリースより)
調査結果サマリー
- 言葉の認知度は1割未満と低いものの、性差に着目した医療の必要性を感じている女性は約8割
- 「女性だけに起こる病気」のみならず「男女共通の病気」においても性差に配慮した医療が必要だと感じている女性は約8割
- 一般的なヘルスケア商品・サービスにおいても性差への配慮が必要だと感じている女性は8割以上
- 社会に必要だと思う性差に配慮したヘルスケア商品・サービスのカテゴリーは、「1位:要介護・要支援者向け」「2位:健康に役立つ衣類関連」「3位:患者向け」
- 個人的に企業に開発して欲しいと思う性差に配慮したヘルスケア商品・サービスのカテゴリーは、「1位:健康に役立つ衣類関連」「2位:患者向け」「3位:癒し・リラックス・リフレッシュ関連」
性差医療という言葉や概念は一般には知られていないものの、性差に配慮した医療の必要性や、一般的なヘルスケア商品・サービスにおいても性差への配慮を必要と感じている女性がマジョリティであることが当調査で明らかに。
国内のフェムテック市場では現状、「女性だけに起こる健康問題」に着目したソリューションが主流ですが、今回の調査でも明らかになった通り、「男女ともに起こるが、女性に多い健康問題を解決・予防する商品・サービス」と「男女に同等に起こる健康問題を、女性特有の症状・原因・心理・環境などに配慮して解決・予防する商品・サービス」という視点で開発されるソリューションも同様に求められていることは、当調査で最も注視したいファインディングスであり、かつ、性差ヘルスケアの可能性を探る上での確かなエビデンス。
「フェムテック=女性だけが持つ臓器・不調・病気を対象にした商品・サービス」という捉え方だけではなく、今後は、「フェムテック=男女共通の臓器・不調・病気を対象にした女性向けのヘルスケア商品・サービス」、「フェムテック=女性特有の症状・意識・生き方・社会問題に配慮をしたヘルスケア商品・サービス」をも含んだ捉え方で、多様な視点から女性向けのヘルスケアソリューションの開発が活発化と、あらゆる年齢、ライフステージ、不調・持病・障害のある女性に、性差に基づいたヘルスケアソリューションが適時適切に届けられることに期待。
<次ページに調査結果を掲載>
ジェンダード・イノベーション発想のヘルスケアソリューション開発に向けた女性調査結果
「性差医療」言葉と内容の認知度
性差医療の(言葉の)認知度、1割未満
女性2,000人に「『性差医療』という言葉を知っていますか?(単一回答)」と聞いたところ、「知っている(「聞いたことがあり、内容まで詳細を知っている」「聞いたことがあり、内容はなんとなく知っている」の計)」と回答した女性は1割未満で、一般には知られていないことがわかりました。
性差医療の意味の説明後、「性差に着目した医療の存在を知っていた」3割
「性差医療」の説明をした後に改めて認知を聞きました(説明文と質問文は以下)。
【性差医療の説明】
「性差医療」とは、男女の様々な違いに着目して病気の診断・治療・予防をする医療のことで、以下の全てが当てはまります。
(1) 女性あるいは男性のどちらかだけに起こる病気、という男女差に配慮した診断・治療・予防
(2) 男女ともに起こるがどちらか一方に多く起こる病気、という男女差に配慮した診断・治療・予防
(3) 男女の発症率はほぼ同じだが、病状・発症時期(年齢)・薬の効き方・予後などに男女差がある事に配慮をした診断・治療・予防
【質問】
それでは改めてお聞きします。「性差医療」という言葉を「知っていた」「知らなかった」に関係なく、上記で説明したような医療が存在することを知っていましたか?また、知っていた方は、上記で説明したような医療のどの領域のことを知っていましたか?(複数回答)
すると全体で約3割が「知っていた」と回答。「性差医療」という言葉には馴染みがなくても、概念そのものを知っている女性は一定数いるようです。
続いて、性差医療の説明後に「性差医療の存在を知っていた」と回答した女性に、上記3領域のうちでどれを知っていたか聞いたところ(複数回答)、最も多かったのは(1)の領域でした。この領域は例えば女性であれば、子宮がんなどの女性特有がんや、月経・妊娠関連の病気などの医療が主に当てはまりますが、それでも認知は2割ほど。(2)と(3)の領域についてはさらに低く、わずか1割。やはり一般には浸透していない専門用語・専門の概念のようで、生活者にとって身近な言葉・概念ではないことがわかります。
「性差医療」の必要性
性差医療の意味の説明後、「性差に着目した医療の必要性を感じた」約8割
「性差医療の説明を聞いて、各領域の性差医療の必要性を感じましたか?(各領域で単一回答)」と聞いたところ、「必要性を感じた」女性は3つ全ての領域において約8割に上ることがわかりました(「とても必要性を感じた」「必要性を感じた」「どちらかといえば必要性を感じた」の計)。「性差医療」は知らないものの、性差に着目した医療の存在を知ると必要性を感じる女性が多いことが明らかになりました。また、女性だけに起こる病気に着目した性差医療のみならず、男女共通で起こる病気においても性差医療を望む女性たちの意識が見えてきました。
「性差医療の考え方と同様にヘルスケア商品も性差に配慮をしてほしい」8割以上
続いて、性差を配慮したヘルスケア商品・サービスにおける以下3つの領域(1)〜(3)を示した上で、「性差医療の考え方と同様に、自分や家族が使う女性向けのヘルスケア商品・ヘルスケアサービス(健康商品・健康サービス)においても、性差への配慮が必要だと思いますか?(各領域で単一回答)」と聞いたところ、「必要性を感じた」と回答した女性は、3つ全ての領域において8割以上に上ることがわかりました(「とても必要性を感じた」「必要性を感じた」「どちらかといえば必要性を感じた」の計)。
特に割合が高かった領域は(1)ですが、(2)(3)も同様に8割以上が必要性を感じており大差は見られませんでした。男女に同等に起こる健康問題の領域でも、性差に配慮した商品・サービスを求める女性が多いことがわかりました。
(1)女性だけに起こる健康問題を解決・予防する商品・サービス(健康問題の例:生理・妊娠・出産関連、閉経、女性特有がん、など)
(2)男女ともに起こるが、女性に多い健康問題を解決・予防する商品・サービス(健康問題の例:冷え性、便秘、摂食障害、骨粗しょう症、うつ病、更年期障害、骨折・転倒による寝たきり、等)
(3)男女に同等に起こる健康問題を、女性特有の症状・原因・心理・環境などに配慮して解決・予防する商
品・サービス(健康問題の例:睡眠不調、疲労、眼精疲労、ストレス、口臭、胃の不調、痔、薬の副作用、生活習慣病、等)
「社会に必要だと思う、性差に配慮したヘルスケア商品」のカテゴリー
「世間一般としては、どのカテゴリーで、性差に配慮された女性向けのヘルスケア商品・ヘルスケアサービス(健康商品・健康サービス)が開発されるべきだと思いますか?(複数回答)」と聞いたところ、以下の結果となりました。高齢者・要介護者・患者向けといった医療・介護寄りのカテゴリーで特に必要性を感じている女性が多いことがわかりました。少子高齢化、平均寿命の延伸、健康寿命、寝たきり、老老介護、ダブルケアラー、ヤングケアラーといった昨今の社会問題の認識が背景にあるのかもしれません。
・1位:要介護・要支援者向けの商品・サービス(29.2%)
・2位:健康に役立つ衣類関連の商品・サービス(29.1%)
・3位:患者向けの商品・サービス(28.0%)
・4位:体の機能低下を補う商品・サービス(22.7%)
・5位:健康状態の計測・検査関連の商品・サービス(21.3%)
「性差に配慮したヘルスケア商品を、あなた自身が企業に開発して欲しいと思う」カテゴリー
「あなた自身としては、どのカテゴリーで性差に配慮した女性向けのヘルスケア商品・ヘルスケアサービス(健康商品・健康サービス)が開発されてほしいと思いますか?(複数回答)」と聞いたところ、次の結果に。日々のセルフケアに関連したカテゴリーで性差への配慮が求められているようです。
・1位:健康に役立つ衣類関連の商品・サービス(29.6%)
・2位:患者向けの商品・サービス(23.4%)
・3位:癒し・リラックス・リフレッシュ関連の商品・サービス(23.1%)
・4位:食関連の商品・サービス(20.4%)
・4位:感染予防関連の商品・サービス(20.4%)
なお、性差に配慮したヘルスケア商品・サービスを求める女性にその理由を聞いたところ、次のような声が集まりました(一部公開。他詳細については当リリース下部に掲載)。
<患者向けの商品・サービス、を選択>
★薬の副作用で顔に湿疹ができたりムーンフェイスになったりした。その時に肌状態もケアしてもらいたかった(27歳,広島県)
★私自身が脱毛でウイッグを着用しています。夏は暑くて気分が悪くなりますが、解決できる商品はない。経済的にもキツイ(77歳,大阪府)
★男性にトイレやお風呂の介助をして欲しくない(70歳,東京都)
<健康に配慮した住居関連の商品・サービス、を選択>
★更年期ならではの不安や体調の悪さと心の面は関わっていると思うので、温かい環境や風通しなどに配慮をした建築方法があってほしい(40歳,北海道)
<食関連の商品・サービス、を選択>
★食は基本的に個人差が大きいとは思うが、やはり筋肉量や骨格などによって男女差が関連すると思うので(66歳,東京都)
<健康状態の計測・検査関連の商品・サービス、を選択>
★心電図やレントゲン室は、暖かくなるように、工夫してほしい(68歳,福岡県)
<健康に配慮した住居関連の商品・サービスと、健康に役立つ衣類関連の商品・サービス、を選択>
★母が要介護3で、一日のうちほとんどが寝ている状況です。時折、尿漏れなどの症状が起きるので、本人はそれを恥ずかしいと認識している様子です。 将来的に入院や施設を利用することがあれば、いつまでも女性らしくいることを意識した部屋やインテリア、着衣(パジャマでもお洒落なデザイン、尿漏れ対応品もカラフルであることなど)も工夫されていることなどが理想だと感じます。トイレも清潔感のある心地よい空間で、いつまでもいたいと思える病院や施設だと嬉しい(72歳,京都府)
<睡眠関連の商品・サービス、を選択>
★女性向けの更年期障害と男性向きの更年期障害の差があるので、それに対応できる商品が増えると嬉しい(44歳,東京)
<体の機能低下を補う商品・サービス、を選択>
★女性は妊娠、出産に向けて生理があり、また出産をすることで大きな体の変化が起こります。そのため、男性と同じような医療では足りない面がたくさんあると思うからです(26歳,岡山県)
実際に見た・使ったことがある、性差の配慮がされていたヘルスケア商品のカテゴリー
「これまでにあなたが実際に使った、あるいは見た事があるもので、『性差への配慮がされている』と感じた、女性向けのヘルスケア商品・ヘルスケアサービス(健康商品・健康サービス)のカテゴリー(複数回答)」を聞いたところ、次の結果となりました。多様な商品・サービスカテゴリーの開発を求める女性の意識が前述の結果で浮かび上がったものの、実際に見たことがある・使ったことがある人は少数で、世の中に性差ヘルスケア商品・サービスが少ないことを読み取れる結果となりました。
【調査実施・共同企画】株式会社ネオマーケティング
マーケティングリサーチによる生活者理解をベースに、企業のマーケティング活動全般を支援している会社です。生活者の”リアル”を伝える調査結果をサイト上に無料公開しています。
https://neo-m.jp/
【共同企画】ウーマンズ
女性ヘルスケア市場専門に特化した生活者分析/市場分析/法人ネットワークを強みに、「コンサルティング」「ビジネスメディア『ウーマンズラボ』の運営(https://www.womans-jp.com/)」「イベント主催・イベントコラボ」を行なっています。「ジェンダード・イノベーション発想の、女性ヘルスケアの認知向上・社会実装」をミッションに掲げ、多様な企業様と、女性ヘルスケアに関するプロジェクトを推進しています。
https://www.womans-jp.com/